コラムNo.032 飼い育てるという意味(その1)
バブル成長期のころ、経済成長に同調するようにペットブームの到来といわれた時代がありました。私自身はこの「ペットブーム」という言葉は、まったくもって好きではありません。なんだかマスコミや商業ベースに踊らされ、安易にショッピング感覚で手を出してしまう追い風となったように思えてましたから。しかし、いまや「ペットブーム」という言葉は死語となってしまいましたが、それを機にペットたちの地位向上は確実に増した感があります。庭先からリビングそしてベッドへと上がり、さらにペット(愛玩動物)からコンパニオン・アニマル(伴侶動物)として、いまや家族の一員といわれる存在になってきました。ときには、本来の身内以上の特別待遇を得ることもしばしば。旦那さんが咳をするくらいはとっとと仕事に送り出すが、この子が咳をすると一目散に病院へ駆け込むという話はよくあります。また、親が亡くなったときでもたいして涙も出ませんでしたが、あの子が亡くなったときにはこんなに涙が出るものなのかと後日明かしてくれた方もいました。「この子」も「あの子」も、もちろんペットたちのことですが、ある統計では犬・猫の飼育頭数はおよそ2500万頭、本物の子どもである15歳以下の人口はおよそ1700万人なので数字の上では上回っています。
群れをなすライオンを除けばネコ科の動物は、元来単独での生活様式をとるため、猫たちは人間社会に入っても人との距離をうまく保っていますが、犬は群れを形成しその主従関係の中で自らの地位を見出す習性があります。人間社会つまり家族(複数あるは単身者でも)の中に入り適応していくため、この人たちの中で自分の序列は何番目かと判断します。このとき自らを犬と認識しない、またはできない犬がでてくることがあります。つまり自分を人間と思ってしまうのではないかということです。これは幼犬期における他の犬とのコミュニケーション不足が主な原因ですが、完全室内飼育の温室育ちや散歩に連れて行かない閉鎖的な飼育がそれを招いている結果といわれています。特に小型犬種はその傾向が強く、他の犬と仲良く遊ぶことができなかったり、他の飼い主に触られることを怖がったり嫌うことも多いようです。特定の人間とのみ強い絆が結ばれると、他のもの(犬も人間も)を受け入れられない排他的な性格になってしまいがちです。また、溺愛のあまり曖昧なしつけしかしていないと、家族の中での序列が上位になってしまい、これまた権勢症候群またはアルファーシンドロームといって、犬自身王様となってしまい飼い主の言うことを聞かないとか咬みついてくる、なんにでも吠えるといった問題行動に発展します。
このような性格的な擬人化や権勢症候群・排他的な価値観は、一度身についてしまうとなかなか変えることができません。固定した飼い主の下、健康で生涯全うできればそう問題はありませんが、ときに命に関わる状況に陥る危険性があります。
次回につづく