コラムNo.021 飼わないことも愛情
ペットブームといわれてずいぶん久しいですが、この流れいまだに衰える気配がありません。不景気といわれる昨今、確かに景気のよろしい話かもしれませんね。しかし、同時にいろいろな問題が浮彫りになっているのも事実です。ここ1週間のうちに、相次いでNHKと民放で「犬のしつけ・トラブル」に関する番組が3本ありました。これはかなりの高頻度といえるでしょう。それだけ飼育者が困っている現状があるということです。ここでは内容はひとまず置いといて、私なりに感じ取れるその背景についてお話したいと思います。
ひと頃に比べると、人気犬種のダックスフントやチワワの販売価格がお手ごろになっており、飼育希望者の購入意欲をそそる要因にもなっているようです。また、たまたま立ち寄ったペットショップや最近多い大型量販店のペットコーナーなどで、「運命の出会い」を果たし即日家族となることも少なくないようです。このような軽はずみとも思える行為は、「買える」と「飼える」を勘違いしており、さらなる「運命」が待ち受けています。
動物飼育には、いくつかの大事なポイントがあります。愛情、費用、手間ひま、環境、知識そして技術です。どれが欠けても、「運命の出会い」のときに思い浮かべる幸せな生活はありえません。すべてのポイントが満点のとき、何ものにも代え難い動物とのすばらしい人生を送ることができるのです。
「愛情」は他人が客観的に推し量るには難しい面もありますが、他の要素は比較的判断しやすいものです。自分が 「いのち」 を背負うに足りる状況であるのか、きちんと考慮することが大事です。
私自身ある動物の飼育を相談して断念したことがあります。落第点は環境でした。ペットショップの店員さんに立ち話程度で済ませてしまう購入の決定は、絶対にしてはいけません。買う前からの相談は気が引けるかもしれませんが、動物病院に相談することをお勧めします。というよりはお願いです。その対応によっては、飼い始めてからかかる病院の選定基準にもなるでしょう。親切に相談に乗ってくれる獣医師であれば、きっと今後安心して任せることができるはずです。逆に「一昨日来やがれ」的な応対や親身に聞いてもらえないようだと、通うにはどうかと思います。私の病院では、時間に都合をつけて来院していただきコンサルタントを行っています。だって命を計るお話ですので、電話ごときではそれこそ話になりませんから。
動物飼育における愛情、費用、手間ひま、環境、知識、技術などのポイントに、明らかに合格点が取れないのなら、飼われる動物がまず何より不幸になります。いわゆる飼い殺しです。また、人間は手放せば不幸から逃げられたような気になれますが、動物たちには「死」を与えられることにもなりかねません。これが、待ち受ける”さらなる「運命」”です。不幸を増やさない勇気もまた命を守ります。
福岡県獣医師会館の玄関に次のようなポスターが貼ってあります。
「飼わないことも愛情です」